罪作りな想い人 完結
・・・・・ 『 罪作りな想い人 』p6 ・・・・・
「あっ・・・・んン 気持ちいぃ・・・」
浴室内の為か良く響く声に、ロイはヒートしそうな頭を冷やす為に
手元の髪だけに集中しようと奮戦している。
が・・・・・。
「んんっ・・・・大佐ぁ~ そこっ、いぃ・・・」
頭皮のマッサージもと手を滑り込ませているロイを悩殺しそうな声が
先程から頻繁に上がっては、耳から入って脳髄を焼き、胸を締め付けるほどの
昂りに耐え、痛いほど張り詰め始めているソコを宥めと心労が耐える事がない。
―― このままでは寿命が10年は縮じむ・・・。
自分の本能の軽率さを責めても、もう後の祭りだ。
こんな地獄の苦行に耐えなくてはならないのなら、昼間のショットシーンをおかずに
楽しんでいた方が何倍、すっきりとした事か・・・。
後悔は先に立たないから後悔なのだが、こんな酷い仕打ちを強いる運命とやらを
恨みたくもなる。
それでも耐え忍び奉仕し続けているのは、エドワードへの愛の大きさゆえだろう。
丁寧に毛先までリンスを塗りこむと、固く絞った温タオルで包んでやる。
「こ、これで・・・終わりだ。
後は5分ほどしたら流して出てきなさい」
湯船に浸かっているエドワードよりも大量の汗を滴らせながら
ロイは霞みそうになる意識を保って、エドワードにそう告げる。
「ん・・・もう終わりぃー?
ん~ん、リンスって気持ちいいんだよなぁ。
大佐、ありがとうな。すっげぇ良かった」
タオルで頭を包み、振り返っては嬉しそうに笑って礼を伝えてくるエドワードの表情に、
ロイは耐え抜いた甲斐があったと心の中で涙した。
「いや・・・良かった・・よ。きみ・・によろこ」
立ち上がろうとした瞬間、くらりと目の前が白くなる。
何だと思った時には尻餅を付いたのか鈍痛が臀部を襲い、次に後頭部に激痛が走った。
「大佐ぁー!!!」
チカチカと目の前に光の点滅を見ながら、驚いて自分を呼んでいるエドワードの声が
耳に入ってくる。
――― 格好悪い・・・。―――
多分、熱に中てられて湯あたりでもしてしまったのだろう。
「つぅー」
痛みに顔を顰めながら、数度ゆっくりと深呼吸をする。
瞼の裏の光の乱舞が治まってくるにつれ、意識もしっかりとし始める。
「大佐! 大佐ぁー。大丈夫かぁ?」
心配そうに自分を呼ぶ声に応えようと、ロイは瞼を開き。
――― 本当に天国の門を潜りそうになった・・・。
「どうしたんだよ、大佐? 意識はあるか?」
必死のエドワードの呼びかけにも答えず、ロイの視線も意識も一点に釘付けになっている。
何故なら、慌てて浴槽から飛び出してきたエドワードが自分の目の前で
全裸で屈んで・・・屈んで・・・。
「ブホッ!」
と妙な擬音を吐き出しつつ、本日二度目の鮮血を――鼻血を噴出したのだった。
今度こそ、本当の本当に意識が遠ざかって行く。
1日に2度の大量の出血では、貧血状態になっても仕方ない。
薄れ行く意識の中で、ロイは目に焼きついた光景を大切に記憶へと仕舞っておく。
―― 鋼のは、どこからどこまで可愛いんだな・・・――
と感動しつつ・・・・。
*****
「ヒィー ククク く、苦しい・・・ ブッブブ・・・」
自分が寝ているベッドの横では、先程から笑いを堪えてるんだが堪えてないのか
判らない含み笑いが続いている。
「君ねぇ・・・笑いたければ我慢する必要はないだろうが。
我慢して噴出している態度の方が、数倍傷つく」
憮然とした声で隣の情人を窘めるが、その言葉を聞いた本人はと云えば。
一瞬の間だけ静かになったかと思えば。
「ギャッーッハッハハハァー!!!!」
と、今度は遠慮も呵責も無く盛大に笑い声を上げては、バタバタと手を動かしてた。
笑えばいいとは言ったが、ここまで遠慮なく笑われると ――― やはり哀しいものだ。
エドワードが笑い声を収めたのは、それからゆうに10分以上は笑い続けた後だ。
「はぁ~~~・・・。笑いすぎて腹筋がイタイ・・・」
そんな失礼極まりない不満声に、横で笑い続けられたロイはすっかり不貞腐れて、
背中を向けて転がっている。
「・・・・・」
そんなロイの寝姿を見て、エドワードはポリポリと頭を掻いて少しだけ反省をした。
「なぁ、そんなに怒んなよ・・・。
別にいいじゃん。過去にそんな事があったとしても、今は関係ないんだしさ」
なぁなぁなぁとロイの肩を捕まえて揺するが、よっぽど悔しかったのか
ロイはうんともすんとも返してこない。
・・・はぁ~。・・・ 内心で溜息を吐きながら、エドワードはロイの引き締まった背中を眺める。
付き合う前のロイの不審な行動のわけを訊ねたのはエドワードだ。
あの頃のロイは、色々とエドワードには理解出来ない行動を積み重ねていた。
今日は久しぶりに時間の余裕もあったから、インターバルの間に以前から疑問に
思っていた事を聞いてみようと思ったのが始まりだ。
――― まさか、あん頃からだったとはな・・・――
ロイとエドワードが付き合い初めて、そろそろ数年の月日が経つ。
今だよく喧嘩もするし、言い合いもしょっちゅうだ。
それでも別れずにこうして付き合っているのは ――― やっぱり好きだからだろう。
エドワードはよいしょと身体を横たえて、ロイの背中にぴったりと張り付くようにして抱きつく。
「・・・別にいいじゃん。確かにあん時のあんたには驚かされたけどさ。
――― でもあのおかげで、・・・俺があんたを意識し出したんだから・・・さ。
そんなけ俺の事を好きで居てくれたと思うと、嬉しいよ。ありがとう」
それはエドワードの本心だった。
あの日、ロイが二度もエドワードの前で倒れて、エドワードはロイが病弱な体質で
それをおしながらも頑張っているのだと思い込んだのだ。
―― 勿論、付き合っていくうちにそれは勘違いだと気付いた・・気付かされたが。
だからこそエドワードの中の長男気質がくすぐられ、守ってやらなきゃ!と
思わされるようになったのだ。
そんな事を言えば、またロイが拗ねるのが判っているので言わないが、
どんな経緯で心を傾けるようになったとしても、今が結構幸せだと思っていて、
気にもいってる。
なら、切っ掛けはどうであれ問題はないのだ。
「・・・・・本当に?
格好悪い奴だとか――― 思ってないか?」
少しだけ顔を向けてはそんな事を聞いてくる相手に、エドワードは参るよなぁ~と
心で降参の旗を上げる。
――― どうしてこいつはこう可愛いんだよぉー!―――
三十路を越して暫く経つと云うのに、ロイの言動は可愛いの一言だ。
そんな処が長男で漢らしいエドワードのツボに嵌っているのだ。
「思ってねぇって。それにもし・・・あんたが格好悪くても、
俺が好きな男には変わんないぜ?」
エドワードはロイの髪を弄りながらそう囁いてやる。
「エドワード・・・」
エドワードの言葉が利いたのか、ロイは嬉しそうな笑顔を浮かべながら
エドワードを抱きしめてくる。
付き合ってからもエドワードにぞっこんで。
付き合う前からもベタ惚れしてて。
エドワードの言葉に一喜一憂をみせる相手が、可愛くないはずが無い。
「俺はあんたが大好きだよ・・・」
――― あんたのそんな可愛い処がさ。――
この台詞を云うとまた落ち込むだろうから、エドワードの胸の中だけで呟く。
軍でも街でも、ついでにベッドでも雄雄しい男っぷりを見せているロイが、
自分の前だけは、子供みたいになってしまう。
それはそれで嬉しいからいいのだ。
せっせとエドワードに奉仕を始めた男は、どうやら第何ラウンド目をスタート
する気らしい。
―― そんなタフな処も、エドワードは気にいっているのだった。
『罪作りな想い人』完
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